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大阪地方裁判所 昭和30年(ワ)1690号 判決 1957年4月26日

原告

ピー・エー・メーター

被告

大同運輸株式会社 外一名

主文

被告中原は、原告に対し金百三十四万円及び之に対する昭和三十年五月十九日以降完済迄年五分の金員を支払え。

原告の被告大同運輸株式会社に対する請求はこれを棄却する。

訴訟費用中、原告と被告中原との間に生じた分は、被告中原の負担とし、その余は、原告の負担とする。

この判決は、原告勝訴の部分に限り、原告が金四十万円の担保を供するときは、仮に執行することが出来る。

事実

(省略)

理由

被告中原が、原告主張の日時、原告主張の如く合計金二百八万八千百四十三円の金員を原告より借受けたこと、並に同人が輸入にかゝる本件タイプライター百九台を、輸入と同時に同人名義で被告会社に寄託したことは、当事者間に争がない。原告は、被告中原より右タイプライターの所有権譲渡を受け更に、被告両名と、右物件については、爾后、原告の出庫指図なくして出庫しないとの特約をなした旨主張するので、この点につき判断するに、証人曽我部勉(第一回)、同宮本の各証言並に原告本人尋問の結果を綜合すると、原告は、昭和二十七年九月二十七日、被告中原に輸入代金残額を貸付けるに際し、無担保では、不安を感したので、原告の代理人曽我部勉を通じ担保の為右タイプライターの所有権譲渡を受け、更に右タイプライターの寄託名義が、被告中原であつた関係から、被告中原との間に、爾后の出庫指図なくして、右タイプライターの出庫をしてはならない旨の特約をなした事実を認めることが出来る。右認定に反する被告中原本人尋問の結果は、前記証拠と対比し措信し得ないところであり、他に右認定を覆すに足る証拠はない。しかして担保の為にする所有権譲渡は特段の事情なき限り、内外共に所有権を担保権者に移転せしめるものと解せらるるところ、被告中原が、原告の指図なくして、原告主張の如く被告会社に寄託中のタイプライター四十六台を出庫これを処分したことは、当事者間に争なきところであるから、結局被告中原は、前記特約に反して右物件に対する原告の所有権を侵害し、これによつて、原告主張の如き損害額を生ぜしめたものと認められる、而して曽我部勉(第二回)の証言により真正に成立したものと認めることができる(被告会社においては成立に争ない)甲第九、十号証並に同人の右証言によりタイプライターの価格は右処分当時合計金百三十四万円なること相当と認められるから被告中原に対し、爾余の点を判断するまでもなく損害賠償として金百三十四万円及び之に対する本訴状送達の翌日たること記録上明瞭な昭和三十年五月十九日以降完済迄年五分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の請求は正当としてこれを認容すべきである。次に、被告会社に対して、共同不法行為責任を追及する原告主張の当否を判断するに、被告会社の原告に対する不法行為責任を肯定せんが為には、前記の如く原告と被告中原との間になされた本件タイプライターの所有権譲渡並に出庫の制限に関する特約を、被告会社が認識しており乍ら、故意又は過失によつて、被告中原より出庫要求に応じ、以て原告の所有権を侵害したことを要するものと解せられるところ、右原告主張に沿う証拠はなく却つて証人森又雄(一、二回)同諸橋久信の各証言に被告中原本人尋問の結果を綜合すると、原告と被告中原との間になされた右特約が被告会社に通知せられたことはなく、従つて被告会社としては、当初の委託契約に基き、寄託者たる被告中原の、寄託物に対する権利関係には何らの変動がなかつたものと考えて、被告中原よりの出庫要求に応じていたことが認められる。尤も成立に争のない甲第一号証の記載内容に徴すると、恰も、被告会社が本件タイプライターを、原告のため委託していたものと認められなくはないが、前顕証拠を対比すれば、甲第一号証は、被告会社々員たる諸橋久信が被告中原よりの要請により、保管証明として、被告中原のために本件物件を受託中なることを記し、宛名人たる曽我部勉は、被告中原の勤務する日本製造家貿易株式会社の社員であると誤信していたものと認められるから、且つ誤信の点につき被用者たる訴外諸橋の過失を認め得ない本件においてこれを以て被告会社が、原告のため本件物件を受託していたものと認定することは出来ない。右認定に反する証人曽我部勉(第一回)の証言は、前記証拠と対比し当裁判所の措信し得ないところであり、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

果して然りとすれば、被告会社々員諸橋は、自ら意識して真意に反する意思表示をしたものではないから、心裡留保の主張は理由なきものであり、又同人の不法行為を前提として、同人の使用者たる被告会社に、民法第七百十五条に基き損害賠償を請求する原告の主張も亦理由なきものと言はねばならない。よつて原告の被告会社に対する本訴請求は何れの理由よりするも失当とし排斥を免れない。

以上の次第であるから、原告の被告中原に対する請求は正当として、これを認容し、被告会社に対する請求は理由なしとして棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十二条、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 乾久治 松本保三 井上孝一)

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